またしても盤双六史上の凄まじい発見をしてしまったわけだが!
『百科全書 戸内遊戯方篇』は1883年に出版された。
海外の百科事典の翻訳で、そこに「バックガムモン」の項目があり、その真下に「雙陸」という文字が充てられている。
何気ない表記だが、ここは結構重要。
つまり訳者はバックギャモン紹介の英文を読んで、「これは雙六だ」と認識したということなのだから。当時知識の差はあれど、雙六はまだ忘れ去られたわけではない遊戯だったと考えられるのと同時に、雙陸という言葉を充てれば、それで読者が理解できると考えた可能性まである。(というか、雙六に対する説明がない以上、「雙六」で読者にも伝わったのだと思われる。ちなみに当時、同じ「すごろく」でも、「双六」は紙双六で、「雙六」は盤双六という使い分けがされていたようだ。今じゃあ混同されてるし、あー……このブログでもちょっとだけしか意識せずにあまり使い分けていません、すみません……)
ポイントはそれだけではない。
書かれている内容が極めて重要なのだ。
ニ骰ヲ投スルトキ共ニ同数ヲ得ルトキハ之ヲ「ダブレッツ」(同数目重複)ト呼ビテ出現ノ数ヨリ一倍ヲ興フ例ヘハニ骰一時ニ三を現スルトキハ六ナリ此ニ十二ヲ興フルガ如シ
(意訳)2つのサイコロを投げる時、両方同じ数が出た時、これを「ダブレッツ」と呼んで出た数の倍を進める。例えば2つ同時に「三」が出たとき合計六だが、これは「十二」を出したのと似たようなものである。
「ゾロ目2倍ボーナス」!
しかも、他の場所には「ベアリングオフ」を含む「ギャモン勝ち」の紹介まである!
『世界遊戯法大全』などで紹介されたバックギャモンは、バックギャモンというルビはあてていたものの、日本の盤双六のルールを紹介しているだけで、ゾロ目2倍ボーナスやらベアリングオフについての説明はなかった。
なので、本当にバックギャモンが上陸していたとは言いがたい部分もあった。
だけど、『百科全書 戸内遊戯方篇』にはきちんと書いてある。
これはおそらく新発見。
というのも、もし発見されていたら研究書に真っ先にかかれるべき重要なことだから。(というか、今までの盤双六研究書、江戸時代に衰退していると書いてあるものばっかりだったりするのですよ。まる一冊盤双六研究の『すごろく』でも『日本遊戯史―古代から現代までの遊びと社会』でも。今まで江戸時代に廃れたと言われ続けてしまったおかげか、明治時代以降の書物はあまり研究対象に入っていなかったのかも知れません)
これのお陰で、「バックギャモンが再上陸する頃には盤双六がすでに廃れていた」という通説が決定的に破棄されることになった。(なお、ダブリングキューブはさらに時代が降りて1920年代になってからの発明なので、この時代にないのは当たり前)
というわけで、貴重なバックギャモンのイラストがある部分の画像を。
で、この『百科全書 戸内遊戯方篇』が当時どれくらいの認知度だったのかはわからないんだけど……。
かなり影響力は高かったんじゃないかなあ、と想像している。
というのも、この百科全書のシリーズ、戸内遊戯方篇というサブタイトルがついていることからわかるように、色々な篇があるわけで。天文学篇やら地質学篇どころか、豚・兎・食用鳥・籠鳥篇とか彫刻及捉影術篇とか、物凄くマイナーなのまで数十冊あるまさに百科事典っぽい百科事典だったり。(それだけ出せるってことは、それだけ売れたって推測もできるし、結構読まれたんじゃないかなあとは思う)
明治維新後、海外の文化を取り入れようとした文化人たちが一生懸命訳した結果で、おそらく学者・学生・知識人たちはこれを手にとってたくさん勉強をしたんだと思う。
ブログを開設してちょうど一年の区切り。
自分でいうのもなんだけど、いい発表ができたんじゃないかな!
(あ、でも、もうさすがにネタ切れなので、今後の新発見は期待しないで……)